完全無学者のための高周波アートワーク

まえがき

高周波回路基板

高周波回路の部品の選定とアートワークでは、通常は何となくで決める部品の特性や配線幅、取り回し、部品の配置、コネクタのフットプリントなどがすべて重要な要素になります。今までどうでもよかったことがどうでもよくなくなるのは割と苦しいです。

この記事は少し前の私のような完全無学者が技術書を読んだ後に実際に設計するまでのハードルを下げることを目的として書かれています。生暖かい目で見て頂き、間違いがあれば指摘して頂けると喜びます。

伝送線路の設計

LNAやRFスイッチ、パワーディバイダなどの高周波コンポーネントは、想定される周波数帯域での入出力インピーダンスはおおよそ50Ωになっています。(75Ωとかのもあります)

(周波数が低い領域ではオシロスコープなどを使い電圧を基準にして信号を測る一方で、高周波領域ではネットワークアナライザなどを使い電力を基準にして信号を測る)

高周波コンポーネントだけでなく、ただの配線にもインピーダンスが存在し、これを特性インピーダンスといいます。これは伝送する信号の周波数が上がると配線に含まれる微小な寄生レジスタンス・寄生キャパシタンス・寄生インダクタンス成分が無視できなくなるためです。配線の抵抗成分とそれによる損失を考慮した場合、特性インピーダンスも周波数によって微妙に変化することになります。ここでは、高周波を伝送するための配線を特別に伝送線路と呼称します。

伝送線路から高周波ICに信号を入力する場合を考えてみます。ICの入力インピーダンス(想定される周波数帯域では50Ω)と伝送線路の特性(出力)インピーダンスが異なるインピーダンス不連続点では、

反射係数=(入力Z−特性Z)/(入力Z+特性Z)

S11 = -リターンロス = 20 log(|反射係数|)

の式に従い、Sパラメータ表記でS11[dB]の反射が発生します。リターンロスは反射電力に対する入力電力の比をdBで表した正の数値で、数字が大きければ大きいほど入力端での反射が小さいことを示しています。(入力電力に対する反射電力の比として定義されて負の数値になってることもあるので絶対値で良し悪しを判断しましょう。)入力Zと特性Zの値が異なるほどリターンロスの値が小さくなり、入力端での電力の反射が無視できないほど大きくなってくるのが解ると思います。逆に高周波コンポーネントから伝送線路に信号を入力する場合でも同様に計算できます。電力の反射すなわちエネルギーのロスなので、配線の伝送線路の特性インピーダンスは使用したい周波数領域で概ね50Ωに合わせる必要があることが判ります。

理論は一旦置いておいて、KiCadでの実際の設計に移ります。KiCadの計算機ツールを使うと簡単に特性インピーダンス50Ωの伝送線路を設計することができます。周波数はGNSSのL1の中心周波数の1575.42 MHzとしています。

 

KiCadの計算機ツール

伝送線路には幾つかの種類がありますが、ここではGND付きコプレーナ線路を使います。GND付きコプレーナ線路の場合、FR4の2層基板で特性インピーダンス50Ωを得るには、配線幅をかなり太くする必要があります。FR4の4層基板とすることで、比較的細い配線幅で特性インピーダンス50Ωを得ることができます。

 

GND付きコプレーナ線路の場合、配線の両側にビアを置きます。どのくらい置いたらよいかは正直良く分からないので私はとりあえず沢山置きます。

伝送線路の表面処理

ここまで伝送線路の表面は銅箔そのままだと想定して計算しましたが、実際は表面処理としてソルダーレジストやHASL、ENIGが施されています。住友電気工業さんの検討によると、レジストを剥がしてENIGを施すと下地金属材料として用いられるニッケルが強磁性体であるために伝送損失が大きくなるようです。レジストを剥がしてプリフラックスを塗る場合の特性が最も良いものの、信頼性の観点ではレジストを被せておくのが安牌らしいです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejisso/23/0/23_136/_pdf

伝送線路の取り回し

伝送線路の配線幅が途中で変わると特性インピーダンスが変化し電力の反射が起きるので配線幅は一定にするのが望ましいと言えますが、実は伝送線路を曲げる場合にも特性インピーダンスの不連続が発生します。曲げ半径はできるだけ大きくするのが望ましいといえます。

プリント配線の曲げが伝送特性に及ぼす影響|RITAエレクトロニクス

また、コプレーナ線路の場合はリターンパス確保のために両側のGNDベタの幅が配線幅の2~4倍あると望ましいです。やむを得ず別の信号線と基板の裏側で交差する場合、DCカットキャパシタやジャンパ抵抗の下で直角に交差させ、内層にGNDベタを仕込むのが望ましいとされています。一応基板の同じ面で信号を交差させるためだけの素子も存在するらしいです。ビアに高周波の信号を流すのも出来なくはないらしいですが現実的ではありません。

ここで私が設計したGNSSモジュールをアートワークの例として示します。

取り回し含め諸々が良くない例(ビア置いてる途中)

取り回し含め諸々を改善した例

ちょっとビア多いかも...

取り回し以外にも同軸コネクタが変わったり受動素子のフットプリントが小さくなったりしてますがそれについては後程...

次回はインピーダンス整合・ダンピング抵抗とDCカット・バイアスTについて書こうと思います。